実際に山で熊にバッタリ出会った時の話
かれこれ15年位前でしょうか。
当時私は測量の仕事をしていたので、携帯も圏外になるような山に入ることが結構ありました。
その中で2回、熊にバッタリ出会ったことがあるのでその時のことを書いていこうと思います。
1度目
河川の上流にダムを作る計画があるということで、河川敷地と国有林の境界に境界石を埋設する業務をしていました。
熊の多い地域で日々形跡(熊の糞、足跡、ニオイ等)を感じつつも、
「熊なんてカケヤでぶん殴ってカナテコで串刺しにしてやるわ!」
なんてことを当時は本気で思っていました。
若いって恐ろしいな。
途中から発注者が護衛に地元のハンターさんを付けてくれたので一安心。
「この地域には人前に姿を見せるようなバカな熊はいない。人間がいるという気配をしっかり伝えてやれば出てくることはない。ただ、あっち(熊)はこちらの様子を気にしてどこからか見ているのは間違いないよ。」
という話を聞いて更に安心していました。
余談 護衛ハンターは法律的にどうなのか
ここでちょっと余談挟みます。
熊がたくさんいる地域で作業をしなければならない場合に、熊に襲われるという事故を防ぐために護衛のハンターさんを同行させるというのは法律的にどうなのか。
元生活安全課の警察官だったうちの親父殿によると、
猟銃・空気銃の許可を受けた者でも、正当な理由がなければ猟銃・空気銃を持ち運んではならない。「狩猟」「有害鳥獣捕獲」「標的射撃」のいずれかの用途のためでかける場合のほか、修理のため銃砲店へ持参する場合、保管業者へ保管委託のため持参する場合、転居の場合等は正当と認められる。
こういうルールなので「護衛」というのは狩猟でも有害鳥獣駆除でも射撃でもないから銃の携帯が認められないというのだ。
あと良くある話だと思うんだけど、熊が出る可能性がある場所にキノコ採りに行く場合、猟期で狩猟可能な場所であれば猟銃を持っていくハンターさん結構いると思います。
狩猟をするために銃を持っていくなら狩猟だけしてください。キノコ採りなら銃は持っていかないでください。狩猟中にキノコを発見して、やっぱ今日はキノコ採りにしようと思ったら1回家に帰って銃を置いてからキノコ採りに行ってください。
これが親父殿の説明。
すごい堅苦しいこと言っているように聞こえるけど、たしかに~と思う部分もある。
実際にそれを取り締まるのは現実的じゃありませんが、ヤバいもの持ってるという自覚と緊張感をずっと維持してくださいという意味では原則を理解して心に留めておくべきなのかなと思いました。
にわか雨に気をつけろ
話を戻そう。
アイヌネギが出る頃からはじまり、全ての作業が終わる頃にはもうキノコも終盤だったのでかれこれ半年程ここの現場に通っていました。
1本10キロ以上あるコンクリートの資材を1度に5本も6本も背負って、崖みたいなところを登ったり下ったり、本当に大変な現場でしたがやっと最後の1本を埋め終わったところであたりは真っ暗。
一応18時までは作業が認められているので問題はないものの、完成写真があまりにも真っ暗だと発注者から何だこれはと言われてしまう事が多い。
もうここに来るのも今日で最後だと思っていたのに、写真撮影だけのためにまた来なきゃならんのか。。
しょうがないので翌日(日曜)に写真だけ撮りにひとりで現場に来ることに。
日曜日はハンターさんも来れないのですが、これだけ毎日現場に入っていれば熊も警戒して出てこないと思うから大丈夫だよと言われたのでひとりで行くことになりました。
翌日朝8時現場到着。
天気は快晴!
サッサと済ませてサッサと帰ろう!
ってことで、ひとりカメラと黒板を持って山に入って行きます。
無事に撮影を済ませたところでまさかの雨。
晴れているのににわか雨。
それもとんでもない、バケツをひっくり返したようなスコールです。
ヤバイヤバイヤバイと独り言を言いながらダッシュで車に戻る途中ですぐに雨は止んだのですが、止んだー良かったーと思った瞬間、目の前に大きなヒグマがいました。
死んだ。
熊を目の前にした瞬間はそれしか頭に浮かびませんでした。
距離にして5m位。
でかい。
立ち上がってこちらを見ている姿は190cmの私より確実に大きい。
ヒグマってこんなにデカいのか。
背だけじゃない、顔がデカい。
これは本当に熊なのか?って思うほどに顔が四角くてデカい。
圧倒的恐怖で動けないけど頭だけはフル回転していて、人生を振り返っている。
これが走馬灯のようにってやつか。
幸いなことに熊は襲ってくるわけでも威嚇してくるわけでもなく、こちらをチラチラ見ているだけだ。
こういう時は目をそらさずにゆっくり後ずさりなんて言うけど後ろは山だし、車に戻るには熊の向こう側に行かなければならない。
強烈な獣臭が恐怖感を増幅させます。
あ!
そうだ、熊撃退スプレー持ってるんだった。
ポケットから出して、安全ピンを外したら少し気持ちに余裕ができました。
しかし依然として熊が去ってくれる気配はない。
とりあえずタバコを吸おう。
ってことでポケットから出してみるも、雨のせいでビショビショになっている(´Д`)
それでも何とか吸えそうなやつを見つけて火を付ける。
ライターによる着火やタバコの煙に何かしら反応するかもしれないと思っていたけど特に反応はなく、落ち着いてじっくり見てみると熊もなんだか気まずそうにしているように見えます。
まいったな。
熊は全く動く気配がない。
だからと言ってこっちからリアクションすることもできない。
うーん。
あ、俺カメラ持ってんな。
首に現場用のデジカメがぶら下がっていることに気付き、証拠写真を撮りました。
カシャッ。
と同時に、
ピカッ!(フラッシュ)
熊「ブオオオオオオオオオオ!」
アカーーーーン!
熊スプレー発射!
ボフッ。
想像してたより勢いよく出ました。
発射されたトウガラシエキスは無事熊の顔に命中。
それと同時に、濃いオレンジ色の微粒子がこちらに向かってフワーッと飛んでくるのが見えました。
ヤバい向かい風だった!
瞬時に目をつぶって息を止め、下を向いて腕で顔を覆ったものの一瞬遅れてしまったようで少し食らってしました。
のたうち回る熊と俺。
顔が燃えているんじゃないかと思うくらいの激痛と止まらない涙、鼻水、あとなぜかくしゃみ連発。
涙で見えないなりに熊の様子を伺うと転がるように逃げて行くのが見えました。
その後無事に車に戻り、すぐに運転できる状態じゃなかったのでお昼くらいまで休んでから会社に戻り、熊にバッタリ会ってしまった事、熊スプレーを使用したことをハンターさんに連絡し、スプレーを食らったことで「手負いの熊」になり攻撃性が高まったいたらまずいので地元猟友会でも情報共有してもらうようお願いしました。
余談 熊に追い越された人の話
これは護衛についてくれたハンターさんから聞いた話です。
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もうかなり昔の話になるけど、役所の人やら学者さんやら10人位で何かの調査のためにこの山に入ったんだよ。
昼飯にするべーって少し開けたところでみんなで弁当広げて食べてたら少し離れたところに熊が出てきたんだって。
逃げちゃダメってみんなわかってるはずなのにそん中のひとりが気が動転しちゃって、うわー!って走って逃げちゃったんだってさ。
したっけそれ見た熊が一気にこっちに向かって走ってきて、それにビビった他の人も次々走り出したんだけど、後から逃げた人が熊に追い越されていくんだって。
結局みんな追い越して最初に逃げた人に襲いかかったんだって。
襲われた人は命に別状はなかったんだけどかなりの大怪我したらしいよ。
やっぱね、絶対走って逃げたらダメなんだわ。
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最初に動いた=その群れを率いてるボス
そんな認識でトップを潰しに行った。
というのは私の妄想ですが、可能性あるんじゃないかと思っています。
2度目
1度目の森のクマさんの翌年、今回も仕事中の出来事です。
こっちは場所を言っちゃいます。
夕張のシューパロ湖!
あれの上の方というか奥の方というか、車1台通るのがギリギリでタイヤ1本分ズレたら谷底に落ちますーって感じの林道を延々の登っていった先の現場でした。
こんなとこ絶対熊いるだろ。
熊の巣だろ。
って思ったけど、もうかれこれ3ヶ月この現場に入っている元請けさんは一度も熊を見たことはないと言っていたのでちょっと安心していたのですが、ひとりで資材を運んでいる時にヤツは現れました。
ガサガサッ!
嘘でしょ。
やめて(´Д`)
音のした方を見てみると50m先子熊がいました。
子熊がいる=親熊もいる
そんでもって子熊を守るために母熊攻撃的になる
ってのは結構よく聞く話です。
ここにとどまるのは嫌。
でもあわてて逃げるのもダメ。
私は見なかったことにして仕事を続けるべく次のポイントへ歩きはじめました。
なるべく見ないようにしつつも気になってちょっと見てみる。
ついてきている(´Д`)
距離がちょっと詰まったように感じます(推定40m)。
資材を下ろして次のポイントへ向かいますが、笹を踏む足音が途切れることはありません。
再度見てみる。
更に距離が詰まったように感じる(推定30m)。
測量屋なので目測での距離感にはちょっと自信がある。
自信があるからこそ、どんどん迫ってきているのがわかるので怖い。
1度目の時はいきなり死の覚悟をさせられた感じだったけど、今回みたいにジワジワジワジワ来られるのもこれはこれで嫌だな。
とか思いながら、なんとか車まで戻ってきて後ろを見るともう熊はいませんでした。
自分は助かったけど、一緒に来ているもうひとりが心配だ。
携帯電話は完全に圏外だし、とりあえず熊除けの意味でも音を出しておこうと思って車のクラクションを鳴らしてみる。
カチッ。
あれ?
クラクションってエンジン切ってても鳴るはずなのに。
念の為エンジンかけてから再度ハンドルの真ん中のラッパのマークのところを押してみる。
カチッ。
「壊れとるやんけ!」
と、声に出した後、何とも言えない虚無感に襲われながら命の大切さを噛みしめる若き日の私なのであった。
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